
外資系企業専門の転職エージェントに長年勤務し、自身も外資系企業に通算6社、20年以上の勤務経験があるフリーランスリクルーター斉藤好豪さんに、「外資系企業で働くということの本当のところ」、「外資系企業で求められる日本人の英語力やスキル」について伺いました。

慶應義塾大学大学院修士課程修了。日本の大手エンジニアリング会社に3年間の勤務後、フランス系、アメリカ系、イギリス系の企業6社で、セールスエンジニア、リクルーター等として活躍。外資系企業専門転職エージェントでの経験を活かし、現在はフリーランスリクルーターとして独立。新たにインターネット関連事業でも起業。
運営ブログ:「人生アドリブ」
「外資系企業」への一般的なイメージ。実際のところは?
斉藤さんは、外資系企業専門の転職エージェントにて10年間勤務された中で、外資系で働く日本人社員、外資系への転職に成功した方、失敗した方を多く見られてきたことと思います。そこでお伺いします。
外資系企業に転職を考えるとき、まず自分の英語力を気にする方が多いと思いますが、リクルーターとして、応募者の英語力をどのようにチェックしていましたか?
まずはレジュメ(履歴書)に書いてある資格を見ます。英検、TOEICでだいたいのあたりをつけますが、実はこれがあまり当てになりません。TOEICのスコアが800点でも英語でのコミュニケーションが全然取れない方もいますし、550点程度でもなんとかサバイバルできる力を持っている方もいました。800点くらいまでのスコアですと実力にかなりばらつきがある印象ですが、900点以上になるとまやかしの力では取れない点数なので、英語力についてある程度信頼できるなという印象です。
外資系企業というと、社員全員が高いレベルで英語を使っているところもあるようですが、実際はいかがでしょう?
外資系といっても、日本支社で数百人、数千人という大企業の場合は、日本語での面接が多いですし、英語力のあまり高くない社員の方も結構いらっしゃいます。特に国内営業担当やエンジニアでは、英語を使えない方も多いですね。
でも日本支社の社員数が数十人以下という中小規模の外資系企業ですと、高いレベルのビジネス英語力がないとかなり苦労することが多いようです。
英語のレベルによって、仕事のポジションが左右されることはありますか?
仕事ができるが英語力のレベルが高くない人の場合、外国人上司からすると「重要な取引先の前で、この英語で失礼がないだろうか」とか、「ポジションを上げても、ビジネスレターは結局ネイティブの私がチェックしないとならないな」という不安をもたれる存在になることはあります。上のポジションにいくほど、本国や海外との重要な場面で英語が必要とされる場面が増えていきますから。
また最近では、もともと英語を使う必要がなかった日本企業でも、外資系企業に買収されることが珍しくなくなりました。急に英語力が求められるようになり、英語が苦手なために、社内でのキャリアアップが難しくなってしまった例を、リクルーターとして数多く見てきました。

フランス勤務時代の斉藤氏
それでは英語力以外で、日系企業と外資系企業とで、求める人材に違いはありますか?
日系企業しか経験がない方でも、外資系企業の採用対象になりますか?
私も新卒で日系企業に3年勤めた後、外資系企業に転職しました。もっとも重視されるのはやはり、採用ポジションに求められるスキル・経験に候補者がどれだけマッチしているか、ですから。
ただ、リクルーターの立場から言うと、外資系が初めてという方を企業にご紹介する場合には「英語で仕事を進める力があるか」、「何でも自分から動かなくてはいけない環境に適応できるか」というところは気にしています。
外資系企業の文化に合う、合わないという適性は確実にあるんです。素晴らしいスキルを持った方でも、外資系に移られてから全くパフォーマンスを上げられず、つぶれてしまったというケースを何度か見ています。日系企業で真面目にきちっと勤めてこられた方ほど、サバイバルしなければならないタフな環境への適応に苦労する、という傾向はありますね。
企業が人材に直接アプローチする時代
最近では、求職者は自分から市場に出ていく必要がある、という話を聞きますが?
最近の傾向ですが、多くの企業でダイレクトリクルーティングによる人材の採用を増やしています。ダイレクトリクルーティングとは、転職エージェントの仲介を通さずに、企業が候補者の発掘から面接、オファー、入社までの一連の流れをマネージして採用するやり方です。自社サイトへの応募、リファーラル(社員紹介)採用、LinkedIn(リンクトイン)による候補者へのアプローチ、などですね。
たとえば、知名度の高いグーグル社では、ダイレクトリクルーティングのみで人材採用をしているようですよ。
メリットのひとつは、転職エージェントに紹介手数料を払う必要がないことですね。またリファーラル(社員紹介)採用は、既存社員の「コネクション」による入社なので、企業・転職者の双方にとってミスマッチになりにくく、結果として離職率も低くなる傾向があります。
私が外資系転職エージェントにいた時は、人材のサーチにLinkedInを活用していました。外資系から外資系への転職ではLinkedInはメジャーな存在で、求職者にとっては転職活動ツール、企業にとっては採用ツール、としてよく使われています。私もリクルーターとして候補者にアプローチしていましたし、また実は求職者として企業に直接コンタクトして応募したこともあります。
LinkedInで自分のキャリアを公開してアプローチを受け付けていると、自社内にもそれが分かり「この人は転職を考えているんだな」とネガティブに捉えられることはないのでしょうか?
LinkedInは今では転職活動・採用活動のためのツールのイメージが強いですが、もともとはプロフェッショナルどうしで情報交換をするためのネットワークでした。今もビジネス交流の目的で使っている方も多いと思います。
ただ、外国人に比べ日本人は、自身の経歴やキャリアを公開することをためらう方が多い傾向はまだまだありますね。
外資系企業には長く勤める方が少ないイメージですが、いかがですか?
ただ1年ごとに転職を繰り返していたりすると、ジョブホッパー(Job-Hopper)と呼ばれてしまい、印象が悪くなります。最終的に行き場を失う人もいますので注意が必要です。でも3年や5年勤めてきちんと実績を出してからの転職なら、ネガティブにとらえられることはないですね。

斉藤氏も6社の外資系企業を経験した
外資系で働いている社員には、愛社精神や忠誠心のようなものは少ないのでしょうか?
外資系でも勤続20年、30年と長く勤めている人もいるんですが、たとえそういう方でも、「会社だけが私の人生」ということにはならないですね。長く働いていても「クビ」になることもありますしリストラも珍しくありませんから、社員個人は会社に過度に寄りかかることはないんです。
最後にリクルーターの立場から、将来的に転職を考えている方にアドバイスをお願いできますか?
自分の会社でしか通用しないスキル・経験に依存していないか。明日クビになったり、会社が倒産して放り出されたりしたら、自分を雇いたい企業はあるのだろうか。 という意識を常に持つことですね。
具体的には、年1回は、転職を考えていなくても、自分のレジュメ(履歴書)をアップデートしましょう。なぜ毎年なのかというと、まず、5年、10年と経つと、昔のプロジェクトのことなんて忘れていて詳しく書けなくなるんです(笑)だから、1年ごとに仕事の棚卸しをするのがいいですよ。
また、レジュメを書くことで今自分が身に付けているスキルと、足りないスキルが分かるんです。それが分かれば、次の1年、自分はどんなスキルを強化していくべきか認識できるようになりますよ。これは、自分のキャリアを自分で作っていくうえでとても大切な意識だと思います。
(Vol.2 へ続く)