NHKの「基礎英語」の講師として佐藤先生をご記憶の方も多いのでは?現在も「エイゴビート」(Eテレ)等の子ども向け英語番組に企画から携わる一方、年間80回以上、全国各地の小学校におもむき、英語教育導入の指導にあたられています。

そんな佐藤先生に、ご自身の英語学習歴、そして現在の英語教育をとりまく「誤解」について伺いました。

佐藤 久美子

佐藤 久美子

玉川大学大学院 教育学研究科教授、小学校英語指導者認定協議会(J-SHINE)理事。
津田塾大学大学院博士課程修了。ロンドン大学大学院博士課程留学。言語心理学、英語教育専攻。乳幼児の言語獲得・発達研究に従事し、その科学的成果に基づく英語教育を提案している。2008年より小学校英語指導者認定協議会(J-SHINE)理事。
1998~2001年度、2012~2015年度の期間、NHKラジオ「基礎英語3」、「基礎英語2」の講師を務めたほか、現在も「えいごであそぼ」「えいごであそぼ with Oton」(2012年度~総合指導)、「エイゴビート」(2017年度~番組委員)など多くの英語教育番組制作に携わる。『イラスト図解 小学校英語の教え方25のルール』(講談社)、『こうすれば教えられる小学校の英語』(朝日出版社)等、著書多数。

カラフルな英語辞典から始まった、外国へのあこがれ

父の友人に、海外生活が長く英語もドイツ語もご堪能な方がいらっしゃったんです。子どもの私にも外国の話をしてくださり、クリスマスにはドイツ語や英語で歌を歌ってくださったりしました。その方の影響で外国へのあこがれを持つようになったのかもしれませんね。

また、父が買ってきてくれた子ども用の英語絵辞典を見て、とても驚いたことを今でも覚えているんです。日本には無いような色合いで「Airplane」などのイラストが描かれていて、とにかく印象的でそこから英語に興味を持ちました。

だからよく、小さいお子さんがいる保護者の方に「子どもにどんな英語の本を与えるのがいいですか?」と尋ねられたときは、絵がきれいでカラフルな薄い絵辞典や簡単な読み物をおすすめしています。リチャード・スキャリーの『Best Word Book Ever』なんかがいいですね。

父は当時銀行に勤めていて、これからは英語力が必要になってくるから子どもには英語を身に付ける環境を与えたいと考えていたようです。そのような家庭の方針もあり、小学校6年生からは個人教授について英語を習い始めました。ですから、中学では英語が得意科目になりましたね。

中学生の時には、イスラエルに住む男の子と「ペンフレンド」(手紙を送り合う友達)になり、英語でやりとりしていました。当時イスラエル周辺では戦争が多く、その子が手紙で教えてくれることが、日本の外で起きていることを考えるきっかけにもなりました。

他にも、英語でジュニア用に書かれた「若草物語」「ジェーン・エア」を自分で探して読んだり、都立戸山高校に進んだ後も自分から望んで英会話を習いに行っていました。
親に無理やり勉強させられるということではなく、英語が好きだったので進んで勉強していたんです。

よく保護者の方にお話しするんですが、小さな頃からお子さんに英語にふれる環境を与えるのは大事だと思いますが、その後も英語を学び続けるかどうかは本人の「やりたい」という気持ち次第。その気持ちが持てるかどうかは、生まれ持った資質は関係ないと思いますよ。本人が楽しいと思えるかどうかです。そこでぜひ、保護者の方が、お子さんと「英語」という共通の話題をもつことを楽しんでください。それがお子さんにとってはとても嬉しいものだと思いますよ。

親子留学ではなく、祖母、母、子の3代留学

高校卒業後、津田塾大に進学しました。津田塾では1年次から英語で開講される授業が結構あったのですが、英会話を習っていたので英語にはほとんど困らなかったですね。その後大学院に進んで言語学(英語学)を学び、夏の間だけアメリカの大学院に留学していました。その後、津田塾大大学院で博士課程を修了して大学の仕事についてから、ロンドン大学に留学しました。

当時子どもがまだ小さかったので、留学先に一緒に連れていき、子どもの世話をしてもらうために私の母にも来てもらいました。最近、親子で留学をする方は結構いらっしゃいますが、私の場合、祖母、母、子の3代留学ですね。

最初のうち、母はカタコトしか英語を話せなかったんですが、それでは孫の面倒が見られないと一念発起し60代から英語学校に通い出したんです。日本でも海外でも英会話学校に通っていたら、70歳くらいの時には電話も英語で受けられるようになりました。そんな母のことを見ていますから、英語学習はいつ始めても大丈夫と言えますね(笑)

母の学生時代は英語を十分に勉強できませんでしたが、学びたい気持ちはあったようで、昔からよく「津田梅子さん(津田塾大学の創設者)は6歳の時に家族と離れてアメリカに留学したのよ。女性も勉強すれば自活できるのよ」と話していました。それもあって私は津田塾大に進んだんです。

海外に留学されたとき、どのような壁にぶつかりましたか?

アメリカの大学に留学したときは、それはそれは大変でしたよ。

レクチャーをじっくり聴いて…という形式の授業ではなく、いきなり初めてのテーマでディスカッションさせられるんですね。当時の私の英語力では準備もせずディスカッションするには力が足りずとても苦労しました。

エール大学

アメリカの授業では、ディスカッションや発表が本当に重視されます。例えばある学生が、取るに足らない質問や意見を10回言ったとしても、先生は決してはね付けず「それは違うね」「それはこうだ」と根気よく応えてくれます。そして、たとえ10回目でも良い意見が出たら「それだ!」と高く評価してくれるんです。とにかく発言する人が認められます。

教授と学生の関係も比較的対等で、ともに学び合う仲間というように感じました。先生が学生の意見も引き出して、お互いに議論を深めていこうというスタイルです。

一方イギリスはものすごく日本と似てますね。まず教授がきちっとレクチャーをして、学生がちゃんと理解してからディスカッションに移るのでとてもやりやすかったです。

ロンドン

教育とは、上の立場に立つ先生が、学生に知識や学識を与える、という考えが強いのかもしれません。実際イギリスの先生は、学生たちから見て「仲間」ではなくやはり尊敬する対象でした。

このようにアメリカとイギリスでは教育スタイルにも文化的な違いがありますから、海外へ留学したいという方で、性格がシャイで前へ前へというタイプでないとしたらイギリスを選ばれるといいでしょうね。逆に、どんどんやってみたい、何でもチャレンジしたいというタイプでしたらアメリカ向きですね。

ネイティブと同じ英語力が期待されるアメリカ

英語力に関しては、イギリスと比べてアメリカの方が、要求レベルが高いと思います。

アメリカは移民の国なので、アメリカにいる限りみんな英語を話すのは当たり前なんです。ですから、外国人であってもネイティブと同じようなレベルで英語を話すことを要求されていて、ゆっくりでもいい、言葉に詰まってもいいということが認められにくい気がします。

一方、イギリスはもともと国の勢力拡大とともに英語を世界中に広げていった国なので、英語教育に熱心な国なんです。ですから、英語を話す外国人をおおいに認めて、見守る雰囲気があると感じました。

ロンドン

自分が相手に伝える内容があってこその英語

アメリカ、イギリスに留学して英語力のこと以上に感じたのは、自分の研究内容に精通していないと話にならないということです。自分の専門内容をしっかり把握していれば語学力はカバーできるんです。

私の場合、日本の大学院で言語学を修めた後にイギリスの大学院に留学した時には、英語力に何の問題も感じませんでした。それは、すでに日本で言語学や英語教育について学んでいたので、向こうでの講義がむしろ物足りないくらい、内容については理解していたからです。それくらい精通していると、意見を伝えるための英語力に関して、何も問題を感じなくなります。

ビジネスで英語を使う方も、同じではないでしょうか。ご自分の専門についてしっかりと理解している下地があれば、たとえ英語の会議であってもそれほど困らないと思います。もちろん発表内容を英語で書いておく、英語でスライドを作る、英語のスピーチを練習しておくなどの準備をしておく必要はありますが、中身があれば、多少の英語の拙さはカバーできるものです。

英語はあくまでツールですから、その技術ばかりを磨こうとすると、本末転倒になります。まずは、自分の仕事内容をきわめることが一番。それを英語でどう伝えるか、という具体的な手段として英語力を磨かれていくのが自然な順序ではないかと思います。

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